【塩の街】
出版社:メディアワークス
著者名:有川浩 (アリカワヒロ)
「図書館戦争」シリーズ以外の本も読んでみようと思い、図書館で借りてみました自衛隊シリーズ第一弾。陸上自衛隊編。
これ、有川さんのデビュー作で、文庫版とハードカバー版の2種類あるのですね。裏事情としてハード版でぶっちゃけられているところによると、ハード版で出したかった編集に対し、電撃小説大賞を取ってしまったので文庫で出さざるを得なくなったそうな。
一部登場人物の本来の年齢設定はハード版だとか(文庫版は読者層に合わせて若干若くなってる)、「ヒーローの見せ場」として文庫の方は爆撃シーンが入っているとか。ハード版には本編のサイドストーリー『塩の街、その後』なんてのがあります。
星月としては、文庫版→ハード版の順に両方読むことをお勧めしたいと思います。専門用語の多い爆撃シーンですが、わかりやす見せ場は好きです(笑)。
さて、あらすじを。
『塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。あるときは穏やかに、あるときは烈しく、あるときは浅ましく。それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた……。』
以上が本に書かれていたあらすじなのですが、はっきり言って星月にはよくわからないあらすじでした。なんというか興味が引かれない。確かに塩害って海岸地帯とかでは困った物だろうけど、それが街を飲み込んで社会崩壊を引き起こす? なんで? って思ったのですね。
あらすじで惹かれたのは『空の中』や『海の底』の方。でも、読んでみるとどれも面白いんだけど、『塩の街』が一番印象に残ってたという。
さておき、塩害です。本編読み出してしばらくして発覚しました。一般的に言われる塩害ではなかったのです。
以下、少々ネタバレ込みなあらすじを書いてみます。少しでも嫌だって方はご注意を。
ある日突然空から落ちてきた巨大な塩の結晶。同様の物が大小違えど日本各地、世界中にも落下し、直後、人間が塩の柱と化す奇病・塩害が発生。多くの人は落下してきた塩の柱を疑うも、確固とした因果関係、原因は不明。
この落下により真奈は両親を失い、また国家が臨時国会期間中だったこともあって国会に登院しようとした議員・政府要人がことごとく被害にあい、内閣・各省庁も事実上の壊滅状態に。
技術や知識を持たない社会的弱者は、配給により食料を手に入れるくらいしか生活するすべがなく、生きるのが苦しい人は、誰も住んでいない家や学生などの弱者が住んでいる家、誰もいなくなった商店等を襲撃して食料を手に入れるようになり、警察などのシステムも機能しない以上、治安は悪化を超えてまさに無秩序。無法地帯。
狩る側と狩られる側に分けられた世界で、一人きりになってしまった真奈は当然のように狩られる側に立たされる。
暴行目的で家を襲撃されるが、避難ばしご初使用で辛くも逃げ切り、襲撃された家に帰れるはずもないので配給所を転々とし…。そんな日々にまたも暴漢に襲われ捕まってしまうが、通りすがりの秋庭に助けられ暮らす場所を与えられ、保護者と非保護者として暮らしはじめた二人は次第に心を通わせる。
――塩になるのは真奈が先か、秋庭が先か。
塩となる真奈を見たくはないが、自分が先に逝ってしまうわけにはいかないと思い詰める秋庭の元に、一人の男が訪ねてくる。
「世界を救ってみたくない?」
大規模テロへのお誘いだよ、と、航空戦競会三連覇の元航空自衛隊隊員・秋庭高範を担ぎ出しに来た男・入江慎吾はそう言った。
続きを読むをクリックで、以下詳細バレ中心の感想です。
ベタ甘と言うより、そこはかとなく甘。だと思います。章を追うごとに増す糖度! 脱獄犯・トモヤとの睨み合いがある第2章は、秋庭自覚編ではないかと。3章と4章の間の幕間でほぼ自覚を明記されていますがね。
4章で入江により、塩害発症のシステムの仮説が明かされます。
塩の結晶を視認したことにより人が感染・塩化し、死に至る。また、死に至った人間の亡骸である「塩の柱」もこの病の感染源となる。
人類の度肝を抜いた落下の目的は、それを目撃した人間の構成成分変質暗示を容易にするため。
生物としての侵略行為でありながら、塩柱に明確な意志はない。
そんな塩なんかに殺されてたまるかと、塩害で自衛隊の指揮系統が壊滅しているのをいいことに、まんまと立川駐屯地司令の地位を手に入れた入江。
自分の立てた仮説を証明するデータを得るために囚人を刑務所内の塩害実験室に放り込み、何万人もの犠牲から裏を取り、爆撃を実行するために真奈を盾にして秋庭を動かしたりと非道な奴なんだけども、意外に浪漫主義で、「愛は世界を救わない。関わった当事者だけを救う。僕らは君たちの恋に乗っかって余禄に与るだけ」などと言う。ハード版には入江の過去が垣間見られる番外編があるのですが、それも酷い奴なのに責められない複雑な気分になります。
5章。秋庭出撃! 文庫版とハード版では一番違ってくる章です。
米軍基地からミサイル積んだ戦闘機強奪しての塩柱爆撃作戦開始。なのですが、前日真奈に半ば告白しておいて突き放し、作戦中の死を覚悟していた秋庭の元へ入江の呑気な声で脅迫通信が…。
「真奈ちゃん、例の部屋(塩害実験室)に入ってもらったから。助けたかったら生きて戻れよ〜」
「てめぇ今度こそ殺してやる!」
効果覿面(笑)。
見るだけでアウトな塩害の原因・塩柱から切り出したパネルで覆われた部屋に自ら入った真奈。秋庭が戻らなければ生きている意味はないと言い切った恋する女は凄いですね。開き直った頑固者は強いです。秋庭、絶対に死ねなくなりました。
基地に突入したらしたで手回し済みだったらしく、軽傷者は出ても死者は0な手抜きの銃撃。
「――あのクソ馬鹿! 二回殺す!」
秋庭氏ご立腹。
任務終了後は機体を海上投棄して帰還の予定を勝手に変更。「立川へ強制着陸してやる! せいぜい苦労して後始末しやがれ!」とのこと。でないと一刻も早く真奈を回収できませんしね(笑)。
さて、ここからは少し文庫版のみのシーンになります。図書館に返却済みなので、少々うろ覚えですが…。
戦闘機を(一応)強奪した秋庭。犯人追跡という名目で追ってきた米軍の目的は、塩柱攻撃のデータ収集。どうも入江の取引材料だった模様。キレキレの秋庭は「三回殺す!」宣言。
戦闘機の窓からうっかり直接塩柱を見てしまわないように黒く塗りつぶし、画像データと計測器のみで飛行。爆撃は地上からレーダーによる誘導に任せる予定が霧のため実行できず。だが晴れるまで待っていては真奈が危ない。秋庭は塩化危険度の上がる直接爆撃に切り換えて成功させる。が、米軍隊員の一人は爆撃後崩れゆく塩柱をうっかり振り返ってしまい塩化。
専門的なことは解らないので、へーかなり難しいことなんだろうなぁっと思うばかりでした。でも、ハード版でもカットしなくても良かったんじゃなかなと思います。一種の山場ですもの。
はい、ここからはまた文庫・ハード版共通です。
海上投棄せず、立川駐屯地へ直行した秋庭。わざとなのか威嚇のように低空飛行し、入江たちのいる刑務所上空を通り過ぎる辺りが怒りマックスを示しているようで最高です。凄い轟音でしょう。
そして迎えに来た秋庭は――。いやこのシーンはネタバレすまい。読んだ方が良いです。きっとニヤけられます。
さて、後日譚。ハード版のみです。
惚れた少女を守るついでに救われた世界を旅する二人。秋庭が関西へ移動となったので真奈もついて行くのですが、その目には包帯が巻かれていました。
「塩を見ないで欲しい」
秋庭の願いにより、真奈は視界を塞いでいたのです。
そんな真奈に一目惚れするジャーナリスト志望の中学生男子・ノブオ。家出の上ヒッチハイクで塩害の終息を見て回ろうという、身近に被害者が居ないが故の観光気分は秋庭に潰されます。真奈への想いも完膚無く。
甘々です。人目なんて気にしてません、秋庭氏。
ようやくノブオと路を分かれて、大人げなく嫉妬を告白。
「十年上の男誑かせるんだから、それ以下なんか一ひねりだって自覚しろ!」
「完ッ全にゾーン外の男撃墜しといて自覚なさすぎだ、魔性の女が!」
とのこと。すさまじくメロメロのようです。ごちそうさまです(笑)。
その他サイドストーリーは、立川駐屯地で知り合った夫婦の塩害前とその後のお話。
入江の過去が垣間見られる塩害後のお話。
この二つは感想省略(笑)。
最後に関西の次は秋庭の古巣、百里に移動する秋庭と真奈のお話。またの名をプロポーズ編(笑)。
移動途中、秋庭の田舎に寄り道し、真奈の両親の形見を秋庭家のお墓に入れさせてもらうという話になる二人。そこへ現れたのは秋庭の父。
彼も空自パイロットだったが、交通事故で亡くなった妻の死に目に訓練飛行中だったため間に合わなかった。それを理由に息子の空自入りを反対し、絶縁状態になって十年以上。まだ反対していた親に反発した秋庭は真奈を連れて墓を後にし、真奈にまで八つ当たりをしてしまう。
その夜、「ガキの分際」と「他人」の言葉に傷ついた真奈。もう20歳だから、子供じゃないから守ってもらう権利もない、置いていってと叫ぶ真奈にプロポーズする秋庭。大人ぶって子供扱いしていないと保たないのだと告白。
なにげに尻に敷かれそうな愛妻家ぶりです。>まだ結婚してませんが。
翌日には真奈の立ち会いの下、秋庭親子の話し合いによって親子げんかは終息し、真奈は性根の据わった嫁と認められ、真奈の両親の形見もお墓に納め、位牌も作り、百里に旅立ったのでした。
で、それから3年。役所の住民票部門再開により、二人は正式に婚姻届けを提出。子供も出来て、ジャーナリスト志望だった少年・ノブオが出した本を手にして物語は終了です。
文庫版了読後、この後の二人が見たい! 症状に駆られたのでハードカバー版のサイドストーリーは満足でした(笑)。
最初中身は完全に同じ物だと思っていたのですね。だから貸し出し待ち人数の少ない文庫版のみを予約して読んだのですが、ネットで調べると後日譚が収録されてる。これは読まなきゃでしょう。さっそく予約して、数ヶ月待ちを覚悟していたのですが1月ほどで回ってきました。ラッキー♪
楽しかったです。他の本も次々予約して、順番待ち中です。